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Q:前立腺肥大症の白内障手術

前立腺肥大症の薬を内服しています。今度、白内障手術を受ける予定ですが、泌尿器科の主治医より注意が必要と言われました。場所が全く違うのに本当に影響があるのでしょうか。何に注意したらいいか分からず心配しています。


前立腺肥大症治療薬のうちα1受容体遮断薬を内服されている方には、術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)を生じる可能性があります。IFISは白内障手術中に「水流による虹彩のうねり」「虹彩の脱出・嵌頓」「進行性の縮瞳」の3徴候を生じる病態で、これにより手術の難易度があがることがあります。この薬は前立腺の平滑筋に存在するα1受容体を遮断することで前立腺を弛緩させ、前立腺の尿道に対する圧迫を軽減させて排尿障害を改善させるのですが、α1受容体は虹彩の散大筋にも存在するため、虹彩にも影響が出てしまうという訳です。
白内障手術全体における頻度は1~2%ですが、α1受容体遮断薬を内服している方に限れば、その数割に発症するといわれています。特にタムスロシンやシロドシンは頻度が高いですが、逆に前立腺肥大症の治療薬のみならす降圧剤や抗精神病薬でもおこりえるため注意が必要です。
なお、この副作用は薬をやめて1年以上経過しても生じることがあり、残念ながら手術前の休薬が予防になるとはいえません。つまりIFISへの対策としては、内服の中止ではなく、手術時の対応を前もって準備してもらうために、事前に執刀医に対して薬を服用している旨を伝えておくことが何より大切ということになります。


(執筆:椋野洋和)